【第9回】BCP訓練と職員研修をどう実施すべきか
年1回の形骸的訓練にしないための実践例
「BCP訓練を年1回やっています」という事業所は多いですが、実際には「形骸的な訓練」になっていないでしょうか。
監査官は、「訓練の実施」よりも「訓練から得られた学びが、計画の改善につながっているか」を重視します。
つまり、年1回の訓練であっても、その質が高ければ評価されますし、年4回実施していても形骸的では指摘を受けます。
本記事では、「形骸的な訓練から卒業する」ための具体的な訓練方法と、職員研修の効果的な実施方法を、実践例を交えて解説します。
Contents
形骸的な訓練とは何か
監査で指摘される「形骸的な訓練」の特徴
❌ 形骸的な訓練の例
- 訓練記録に「〇月〇日、BCP訓練を実施」とだけ記載
- 参加者や実施内容が不明確
- 訓練で何が発見されたのか記録がない
- 訓練後、計画書が更新されていない
- 全職員が参加していない(管理者だけ等)
- 同じ訓練を毎年繰り返しているだけ
- 訓練結果について職員間で共有されていない
福岡県内の実地指導で指摘を受ける多くの事業所が、このようなパターンに該当しています。
良質な訓練と形骸的な訓練の違い
| 項目 | 形骸的な訓練 | 良質な訓練 |
|---|---|---|
| 記録 | 実施日だけ | 参加者・シナリオ・課題・改善内容を記載 |
| 参加者 | 管理者のみ | 全職員が参加 |
| 内容の深さ | マニュアルの読み合わせ程度 | 実際に対応フローを試行 |
| フィードバック | 訓練後、特に共有なし | 発見された課題を全職員で共有 |
| 改善 | 計画書は更新されない | 課題に基づいて計画書を改善 |
| 継続性 | 毎年同じ内容 | 前回の改善を踏まえて進化 |
目次
職員研修:BCP理解を深めるための必須ステップ
訓練の質を高めるには、その前提として「全職員がBCP計画を理解している」必要があります。
段階別の職員研修プログラム
【段階1】新入職員研修(入職時)
実施内容:
• 所要時間:1~2時間
• 実施者:施設長またはサ責
• 内容:BCP計画の全体像を理解させる
• 所要時間:1~2時間
• 実施者:施設長またはサ責
• 内容:BCP計画の全体像を理解させる
【実施例】
日時:入職当日または翌日
時間:1時間
参加者:新入職員
【内容】
1. 当事業所が想定しているリスク
→ 「職員急病」「自然災害」など
2. 緊急時の指揮命令系統
→ 「施設長が指揮命令者」「不在時は〇〇」
3. 優先業務とは
→ 「食事・排泄・服薬が最優先」
4. 新入職員自身の役割
→ 「緊急時は指示に従う」「報告を心がける」
【チェックシート】
□ 指揮命令者が誰か理解したか
□ 優先業務の順序を理解したか
□ 自分の役割を理解したか
【段階2】年間初回研修(4月)
実施内容:
• 所要時間:30分~1時間
• 実施者:施設長
• 内容:前年度の訓練結果の共有と改善内容の確認
• 所要時間:30分~1時間
• 実施者:施設長
• 内容:前年度の訓練結果の共有と改善内容の確認
【実施例】
日時:4月の初回朝礼後
参加者:全職員
【内容】
1. 前年度の訓練実施状況の報告
例)「昨年は〇月に職員急病を想定して訓練を実施」
2. 発見された課題の説明
例)「派遣会社への連絡時間が予想より長かった」
3. 実施された改善内容
例)「複数の派遣会社の連絡先を登録した」
4. 本年度の訓練計画の説明
例)「今年は〇月と〇月に訓練を予定」
5. 質疑応答
→ 職員の不安や疑問を解消
【段階3】定期的な朝礼ブリーフィング(月1回程度)
実施内容:
• 所要時間:5~10分
• 実施者:管理者また職員に輪番
• 内容:BCP内容の定期確認
• 所要時間:5~10分
• 実施者:管理者また職員に輪番
• 内容:BCP内容の定期確認
【実施例】
場所:朝礼時
参加者:全職員
時間:5分~10分
【第1週】
「指揮命令者は誰ですか?」
→ 全員が同じ回答を言えるまで確認
【第2週】
「優先度1の業務は何か」
→ 食事・排泄・服薬を確認
【第3週】
「派遣会社の連絡先は?」
→ 全員が連絡先を知っているか確認
【第4週】
「緊急連絡シートはどこにある?」
→ 職員がすぐに取り出せるか確認
このブリーフィングにより、「知識の定着化」と「知識の均質化」が実現
実践的な訓練方法
訓練方法1:テーブルトップ訓練(最も実施しやすい)
概要:
机上でシナリオに基づいて対応を検討する訓練。実際に対応する必要がないため、実施しやすい。
机上でシナリオに基づいて対応を検討する訓練。実際に対応する必要がないため、実施しやすい。
【実施例:職員急病シナリオ】
日時:〇年〇月〇日 10:00~11:00
場所:会議室
参加者:全職員(利用者支援を最小化して実施)
【シナリオ】
「〇〇時、職員Aから『朝から具合が悪く、出勤できない』と電話が来ました。現在、利用者10名が来所予定です。対応してください」
【実施フロー】
1. 施設長が指揮命令者として対応開始
2. 「今日やることは何か」を優先度順に整理
3. 派遣会社に「〇〇時までに対応可能か」と電話
4. 応援事業所に「受け入れ可能か」と相談
5. 利用者の保護者に「短縮対応」を連絡
6. 職員に役割配置を指示
【記録すべき項目】
・実際にかかった時間
・派遣会社の対応可否
・対応できなかった業務
・困ったこと・気づいたこと
【改善案の抽出】
訓練後、全員で「改善点は何か」を話し合い
→ 「派遣会社の連絡先を増やそう」など具体的な改善につなげる
訓練方法2:役割交代訓練(実行能力を確認)
概要:
通常と異なる職員を「指揮命令者」に配置し、実際に機能するか検証する訓練。
通常と異なる職員を「指揮命令者」に配置し、実際に機能するか検証する訓練。
【実施例】
日時:〇年〇月〇日
場所:通常の業務の中で
参加者:全職員
【訓練内容】
「今日は職員Bが臨時の『指揮命令者代行』です」
【意義】
・職員Bが本当に指揮命令できるのか確認
・全職員が「複数の指揮命令者でも対応可能」であることを確認
・いざという時への不安を軽減
【チェック項目】
□ 職員Bが的確な指示を出せたか
□ 他職員がスムーズに従えたか
□ 利用者支援に支障がなかったか
□ 改善すべき点は何か
【期待効果】
「機能する代替体制」の確実化
訓練方法3:実動訓練(最も実効性が高い)
概要:
実際に緊急連絡を流したり、優先業務のみの体制に切り替えたりして、計画の実行可能性を検証する訓練。
実際に緊急連絡を流したり、優先業務のみの体制に切り替えたりして、計画の実行可能性を検証する訓練。
【実施例:複数職員欠勤を想定】
日時:〇年〇月〇日 午前9:00~10:30
場所:実際の業務環境
参加者:全職員
【訓練シナリオ】
「本日、職員AとBが欠勤。常勤1名と非常勤職員でのみで対応」
【実施内容】
1. 緊急連絡体制を実際に実行
→ 派遣会社に電話、実際に対応可否を確認
2. 優先業務に特化した対応を試行
→ 食事・排泄・服薬のみ実施、その他業務は中止
3. 外部との連絡を実施
→ 利用者の保護者に「活動を中止する」と連絡
4. 派遣職員の受け入れ準備
→ 業務内容を簡潔に説明できるか試行
【記録すべき項目】
・連絡にかかった実時間
・派遣会社の実際の対応時間
・対応困難だった業務
・職員の負担度合い
【発見される課題の例】
「派遣会社への連絡が実は30分かかり、計画より長かった」
→ 連絡先を複数確保する改善に
「利用者の保護者への連絡が大変だった」
→ 連絡テンプレートを事前に用意する改善に
年間訓練計画の作成例
【年間訓練計画】福岡県内の小規模事業所の例
【4月】初回研修
内容:前年度訓練結果の報告・本年度計画の説明
参加者:全職員
所要時間:1時間
【6月】第1回テーブルトップ訓練
シナリオ:職員急病への対応
参加者:全職員
所要時間:1時間
記録作成:実施後1週間以内
【8月】役割交代訓練
内容:代替指揮命令者による実行試行
参加者:全職員
所要時間:実業務の中で実施
【10月】第2回テーブルトップ訓練
シナリオ:自然災害・停電への対応
参加者:全職員
所要時間:1.5時間
【11月】改善内容の全体確認
内容:今年度の訓練で発見された課題・改善内容の整理
参加者:全職員
所要時間:30分
【毎月1回】朝礼ブリーフィング
内容:BCP関連知識の定期確認
参加者:全職員
所要時間:5~10分
【実施効果】
・年2回の本格的な訓練
・月1回のブリーフィングで知識定着化
・全職員が「BCP計画を実行できる」という自信を構築
訓練記録の適切な作成方法
監査官が見る訓練記録のポイント
監査官チェック項目:
✅ 訓練が実際に実施されたか
✅ 発見された課題が具体的か
✅ 課題に基づいて改善が実施されたか
✅ 改善内容が計画書に反映されたか
✅ 継続的に改善されているか
✅ 訓練が実際に実施されたか
✅ 発見された課題が具体的か
✅ 課題に基づいて改善が実施されたか
✅ 改善内容が計画書に反映されたか
✅ 継続的に改善されているか
【訓練記録 テンプレート】
【訓練実施記録】
実施日時:〇年〇月〇日 〇時~〇時
実施場所:会議室
参加者:職員A・B・C・D(全4名参加)
実施者:施設長
記録作成者:サ責
【訓練シナリオ】
「職員Aが朝、『発熱で出勤できない』と連絡。利用者8名が来所予定。対応してください」
【実施内容】
1. 施設長が指揮命令を開始
2. 派遣会社〇〇福祉に電話→「2時間で対応可」との返答
3. 職員B・Cで優先業務(食事・排泄)に特化
4. 利用者の保護者2名に「活動を短縮」と連絡
5. 派遣職員到着を想定して、業務内容を説明
【発見された課題】
□ 派遣会社への連絡が「担当者が不在」で時間がかかった
→ 対応時間:実際5分かかった(計画では2分想定)
□ 応援事業所を呼ぶという選択肢を忘れていた
→ 今後は「派遣不可時に応援事業所に連絡」という流れを明確化
□ 利用者の保護者から「他の事業所に預けられないか」と質問
→ 「受け入れ可能な事業所リスト」を事前に用意する必要あり
【改善内容】
実施日:〇年〇月〇日
1. 派遣会社〇〇福祉の複数連絡先を確保
→ 「担当者が不在」の時の連絡先を追加登録
2. 応援事業所との事前協定を強化
→ 「派遣不可時は〇〇事業所に連絡」と明文化
3. 受け入れ可能事業所リストを作成
→ 利用者の保護者に事前説明でき
目次