【第7回】BCPにおける役割分担と代替要員の設定方法― 福祉現場の実態を踏まえた体制づくりのコツ

BCP策定シリーズ 第7回・第8回

BCP策定の中で、最も実行難度が高い業務が「役割分担と代替要員の設定」です。

「うちは少人数だから、役割を限定できない」「急に誰かが対応不可になっても対応できる人がいない」

福岡県内の小規模事業所からこのようなお悩みをお聞きします。確かに、限られた職員数の中での役割設定は難しいものです。しかし、工夫次第で、たとえ小規模でも実行可能な代替体制は作れます。

本記事では、福祉現場の実態を踏まえた「現実的な役割分担」と「代替要員の確保戦略」について、具体例を交えて解説します。

なぜ役割分担が重要なのか

役割が曖昧な現場の危機

多くの小規模事業所では、職員の役割が「職種別」に決まっているものの、「緊急時に誰が何をするか」は曖昧です。

例えば、常勤3名の生活介護事業所を想定してください。

【通常時】
施設長:施設全体の統括・ケアマネジメント
職員A:利用者支援(食事・排泄介助)
職員B:利用者支援と送迎運転
【施設長が急に対応不可になったら?】
→ 誰が指示を出すのか明確でない
→ 職員A・Bが「どちらが何をするのか」決まっていない
→ 現場は混乱し、利用者支援が散漫になる

このような事態を防ぐために、「職種別の役割」だけでなく「有事での役割シフト」を事前に決めておくことが不可欠です。

監査でも厳しくチェックされる項目

福岡県内の実地指導では、BCPの役割分担表について以下の点が確認されます。

  • 指揮命令系統は明確か
  • 代替者は特定できているか
  • その代替者に実際の対応能力があるか
  • 訓練で役割分担が機能するか実証されているか

「計画書には書いてあるが、訪問時に職員に確認したら知らなかった」という指摘は、減点対象になります。

福祉現場特有の役割分担の課題

一般企業のBCP対応では「部門別」「職位別」に役割を明確化するのが一般的です。しかし、福祉現場には特有の難しさがあります。

課題1:職員の多様性と適性差

福祉施設の職員構成は、以下のように多様です。

  • 正社員と非正社員の混在
  • 資格者と無資格者の混在
  • 勤務経験年数のばらつき
  • シフト制により毎日の職員配置が異なる

このため、「このタスクは誰でもできる」という前提が成立しません。

課題2:利用者特性への個別対応

利用者ごとに異なる支援ニーズがあります。

  • 特定の職員にしか心を開かない利用者
  • 医学的ケアが必要な利用者
  • 行動障害がある利用者

役割を固定化すると、実際の支援に支障が出る場合があります。

課題3:人的リソースの不足

特に小規模事業所では、次の代替者候補がそもそもいないことが多いです。外部応援を受けても、事業所の文化や利用者対応に時間がかかります。

「代替要員を確保できる前提」が現実的でないのです。

現実的な役割分担の設定方法

上記の課題を踏まえて、実行可能な役割分担設定のアプローチを紹介します。

ステップ1:職員の能力マッピング

まず、各職員の「できること」「できないこと」を可視化します。

タスク 必要な能力 職員A 職員B 職員C
指揮命令 管理経験・判断力 ×
生命維持対応 医学知識・経験
食事介助 基本的な介護技術
排泄介助 基本的な介護技術
服薬管理 医学知識 ×
外部機関への報告 コミュニケーション能力
記号の意味:
◎ = 単独で対応可能
△ = サポートがあれば対応可能
× = 現時点では対応困難

この表を作成することで、「誰が緊急時にどの役割を担当できるか」が一目瞭然になります。

ステップ2:有事シナリオ別の役割定義

次に、「どんな緊急事態が起きるか」のシナリオを想定し、各シナリオでの役割を決めます。

【シナリオA】職員1名が急に対応不可の場合

常勤3名体制で1名欠勤した場合の対応を事前に定めておきます。

【通常時の職員配置】
施設長:1名
職員A:1名(給食・排泄支援中心)
職員B:1名(送迎・記録中心)
【職員A欠勤時】
施設長:指揮命令・ケアマネジメント
職員B:給食・排泄支援に切り替え、送迎と記録は最小限に
外部応援:派遣職員を要請(対応時間:応援到着まで2時間)
【職員B欠勤時】
施設長:指揮命令・ケアマネジメント
職員A:利用者支援に集中、送迎は中止
外部応援:同上

【シナリオB】施設長が急に対応不可の場合

【代替指揮命令者】
第1次:職員A(サービス提供責任者。経験年数5年以上。管理能力あり)
第2次:職員B(経験年数3年。サ責のサポート経験あり)
【意思決定ルール】
・利用者送迎中止の判断:第1次指揮命令者が決定
・外部支援要請:第1次指揮命令者が判断、困難時はサ責に相談
・福祉事務所への報告:第1次指揮命令者が実施

【シナリオC】複数職員が対応不可の場合

【優先業務への特化】
・食事提供・排泄支援のみに特化
・送迎は中止、利用者の来所を制限
・記録は簡潔に、後日補完
【外部応援の要請】
・派遣会社への人員派遣要請
・福祉事務所への相談(別事業所への一時受け入れ依頼など)
・親事業所(法人内の大規模施設)への応援要請

ステップ3:代替要員の段階的確保戦略

「代替要員がいない」という課題に対して、段階的なアプローチを提案します。

【段階1】内部人材の育成(1~3ヶ月)

現在の職員の中から、緊急時対応能力の高い人材を育成します。

  • 経験豊富な職員に「代替リーダー」としての研修を実施
  • 管理的タスク(報告書作成・外部機関への連絡)の習得機会を提供
  • 定期的なOJT(職場内訓練)で知識を定着化

【段階2】外部応援体制の構築(1~2ヶ月)

法人内部だけでなく、外部リソースの活用も視野に入れます。

① 派遣会社との契約
  • 福祉業界に特化した派遣会社と契約
  • 「計画は立てたが、実行体制が整っていない」と指摘
  • 改善指導の対象に

正しいアプローチ

✅ 正しい例
  • 現在の職員で「実現可能な役割」に限定
  • 段階的に代替要員を確保(派遣+協力事業所+OB人材)
  • 全職員が役割を理解し、定期的に訓練で確認
  • シナリオ別に対応フローを用意

役割分担を実効的にするための訓練

役割分担表を作成しても、訓練なしでは実行できません。 以下の訓練を推奨します。

訓練1:テーブルトップ訓練(月1回程度)

【シナリオ】
「明日朝、職員Aから『発熱のため出勤できない』という連絡が来た。 どう対応しますか?」 【職員に考えさせるポイント】
1. 誰が指揮命令するのか
2. 派遣会社に誰が連絡するのか
3. 利用者への連絡は誰がするのか
4. 本日の優先業務は何か

訓練2:役割交代訓練(月1回程度)

【内容】
「今日は職員Bが施設長の指揮命令役を担当」
という形で、通常と異なる役割配置で業務を実行
【目的】
・代替者の実行能力を確認
・通常の職員配置でなくても対応できるか検証
・「いざという時」への自信構築

行政書士・社会福祉士による役割分担設定支援

篠田事務所では、以下のサポートを行っています。

  • 職員能力マッピングの作成
  • 事業所ごとのシナリオ設定と役割定義
  • 派遣会社・協力事業所との協定締結支援
  • 役割分担表の作成と職員周知サポート
  • 訓練の設計・立会い

限られた人員の中での役割分担は、経験と法的知識の両立が重要です。当事務所にお任せいただければ、福祉現場の実態に基づいた、実行可能な役割体制を構築できます。

おわりに

BCPにおける役割分担と代替要員の設定は、「現場の実情」と「法的要件」のバランスが難しい領域です。しかし、工夫次第で小規模事業所でも実現可能です。

本記事で紹介した「能力マッピング→シナリオ設定→代替確保→訓練」のプロセスを参考に、貴事業所に合った役割体制を構築してみてください。

ご質問や具体的な相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

🏢 行政書士・社会福祉士篠田事務所

福岡県粕屋郡篠栗町にて、障害福祉事業所のBCP策定をサポートしています

ご相談は、いつでもお気軽にお問い合わせください

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